きとうPEACOCKコレクション(3)


きとう氏とハクキンカイロ非公式ファンサイト作者との出会い

きとう氏とサイト作者との関係は、きとう氏が当方にメールを送ってきたことから始まりました。当サイトに出ている(今も出ている)戦前型のことがどうしても気になってしょうがない。できれば来て見せてくれないか、という話でした。
自分のほうが用があるのに呼び出して申し訳ないともおっしゃっていましたが、病気と仕事のため遠出ができないこともそのとき説明されていました。
今にして思えばそれは死病だったわけですが、サイト作者は知るよしもありませんでした。

氏とお会いするのはいつも氏のお宅の近くにあるファミリーレストランで、必ず平日の夜でした。お仕事と通院の都合で、土日とかに長い時間がとれないそれも申し訳ないというようなことは言ってらしたと思います。
きとう氏は好きなものを見るとすぐに子供っぽい笑顔を見せる方で、かつ、隠さずに欲しい欲しいと子供っぽく言う方でした。
そこで、短くても濃いハクキンカイロ談義をしたり、カイロの交換をしたりしました。海外輸出用は(時代にもよりますが)しつこいくらいどこかに必ずMADE IN JAPANと書いてあるのですが、これについているMADE IN JAPANはカイロの袋の内側のタグだったとか、これまた嬉しそうに語られていました。平日夜のファミレスでカイロのMADE IN JAPAN表記について盛り上がってるとか、まわりから見ると変な客同士だったでしょう。けれど氏が来て欲しいと連絡をする回数は、年々減っていきました。メールのやりとりは続いていました。お仕事が忙しくなってきたのだろうと、サイト作者はあまり気にせずにいましたが、今思えば氏の体を病魔がしだいにむしばんでいたのでした。
当時頂いたメールは残っていませんが、氏から来たメールへの返信が数通残っていました。日付は2011年12月。氏があるZippo関連イベントに登壇して喋ったときのやりとり。それが氏との最後のやりとりになりました。

GIANTの始まりは?

これを入手したときのきとう氏はきっと喜んだろうなあと思う品の1つです。メモ書きが大きくてこと細かに書いてあるのでそれが分かります。
よく見るとパッケージに何かスタンプが押してあります。こんな、製造元が押したのではないスタンプとか、普通のコレクターにとってはただの汚れでコレクションとしての魅力は低くなる、だろうと思うのですが、きとう氏にとっては違うのです。右のメモをちょっと拡大します。

きとう氏のメモ

左にスタンプの詳細があります。大きくPAID(代金領収済)の文字、そして1956年12月2日の日付が入っています。つまりこのスタンプから、この品が左上に記述のあるとおり、1956年型(かそれ以前の型)であることがほぼ確実に分かるのです。
実はGIANT、DELUXE、BABYの海外用3種は、いつ頃発売になったのかよく分からないのです。こういう細かいデータを積み重ねていって、結構いろんなことを探っていたようです。なお左下には1954年型#NGB火口と書いてあるので、氏はGIANTは1954年には発売されていたと考えているようです。
上の説明でも書きましたが、しつこいくらいにどこにどんな形でMADE IN JAPAN表記があったのか詳しくメモしています。
PAT.PENDの刻印も気になるようです。同じ刻印が特定の時代のジッポーライターにもあるのも、興味を示された理由の一つでしょう。57年の日付は恐らくこのとき申請中だった特許が降りた日付だと思います。そういうところまで非常に細かく調べているのがきとう流です。
輸出用に関しては氏のほうがサイト作者より相当詳しく調べている感じです。
このほかにも火口の刻印は両面をイラストでメモし、付属袋のタグやアルミ製定量器(ベンジンカップ)の刻印と事細かくメモしています。入手元はペンシルバニア州ベツレヘム市。Wikipediaで調べると1月2月の平均最低気温は-7~-6℃。GIANTが欲しくなりそうな都市ではありそうです。氏も発送元の住所とかを見ながら、そういうことに思いをはせていたのかもしれません。

前にも書きましたが、その物が手元にたどりつくまでのヒストリーみたいなものを重要視するのはきとう氏のスタイルで、だからこそ判明する事実(製造時期の特定など)が多いのも確かです。
もちろん、コレクターの方がみんなそういうスタイルをとっているわけではないでしょうが。
「このコレクション品は意外な国のどこどこという小さな町から出て、前の持ち主のおじいさんが……」的な物語が始まりそうな、そんなメモ書きが残っている品もありました。製造期特定とか以外にも、そういう物語性のようなものも重要視されていたのでしょう。そういえばジッポーにもベトナムジッポーとか大戦期のジッポーとか、そういう逸話が残っている品が多くあります。そういう点も含めて、ジッポーのコレクターのコレクションだなあと感じます。そして、そういうハクキンカイロを持って嬉しそうにその話をするきとう氏の姿をまた、思い浮かべます。