2020年代ごろになにがあったのか。サイト作者が「何かがあったらしい」と感じたのは2023年1月、実験21 その2のときです。ここで、それまでになかった奇妙な性質を示す燃料があったのです。具体的にはこのときのZippoオイルと指定エビスベンジン。ふるまいかたが明らかに他の、そしてそれまでのカイロ用ベンジンと違っていました。当時も書きましたが、カイロ用燃料を含め、石油から作られる燃料には、比重の重いものは揮発しにくく、比重の軽いものは揮発しやすい性質があります。ところがこの2つの燃料は、比重が低くて揮発しにくいのです。当時のサイト作者は、これらの燃料は単純に石油を分留して作られたものではなくて、何らかの化学プラントで化学的に合成されたものであると推測しました。
これらがどんな方法で合成されているのか。それを垣間見ることができる資料が見つかりました。Zippoのホームページにある、Zippoオイルの製品安全シートです。原材料のところに、「Distillates (petroleum), light distillate hydrotreating process, low-boiling 50-100%」とあります。重要なのはhydrotreating processのところです。「水素化処理」されていると記載されているのです。つまり、Zippoオイルの主成分は、単に石油を蒸留(分留)したものではなく、そのあと化学的に加工されたものである、というのがはっきり分かりました。。
これで、「比重が小さいのに揮発しにくい」ほうの謎は解けました。石油の中にはさまざまな炭化水素系の物質が含まれますが、その中でも二重結合三重結合をもつものは、この処理によって単結合になり、沸点は上がって揮発しにくくなるのです。
が、化学的にそうなる理由は分かったとはいっても、いったいなんで手間暇をかけてそんな処理を行うのか、という謎が残ります。単純に分留(蒸留)したものを売ればいいのに、ひと手間かけることによってコストは上昇するはずです。が、これもどうも環境対策の一環らしいということが見えてきます。二重結合三重結合をもつ炭化水素系の物質は、単結合のものに比べて燃えにくい性質があります。するとヤニや煤の原因になりやすいのです。それはガソリンエンジンにとっても、ハクキンカイロにとっても同じです。
もう1つ、有害物質を除去するのにも水素化処理は役立ちます。石油に含まれる有害なベンゼンは、水素化により害の少ないシクロヘキサンに変わります。ベンゼン以外にも水素化によって害の少ない物質に変わる有害物質はあるので、害を減らすためにこのような処理を行っているのだと考えられます。なお、これらの物質は、人体以外にも機械類にも害があります。機械類を痛めないためにも、こういう低害化処理をした燃料が作られるようになったのだろうと考えます。
2023年1月の段階では明らかに何か化学的処理をされているっぽい燃料はZippoオイルと指定エビスベンジンの2種類だけでしたが、ひょっとすると今はもっと低害化処理されている燃料が増えているかもしれません。これらの処理をするとにおいも減ります。においのもとになるベンゼンなどの芳香族が処理されてほとんどなくなるからです。同じ燃料を使っているのに最近においが気にならなくなったのは、慣れたためかもしれないし、燃料そのもののほうが水素化処理されるようになったからかもしれません。
指定エビスベンジンがどんな処理を行っているのかは分かりませんが、実験21の2の結果からみるとたぶん同じように水素化処理を行っているのではないかと推測できます。
こうしてみてみると、全然変わっていないように見えて燃料の世界は日進月歩、かなりの頻度で成分や製法が変わっているのが垣間見えます。ひょっとするとまた別の技術革新がもう始まっているのかもしれません。