今回、戦前モデルのうちの1つを撮影できたので紹介します。
当時の名は「角形 引出式」といったようです。現在はスライド式とも呼ばれます。
付属カップ1杯(25ml)で24時間保温モデルです。火口は後述しますがこはる火口が使えます。袋はPEACOCK用が使えます。ベンジンカップは実は現行品には合うものがありません。根性で3R用を使ってください。(3R用カップだと2杯で25mlになります)
「引出式」「スライド式」の名称の由来は、火口を左右にスライドさせて取り付け・取り外しをすることに由来します。この機種以外にも火口スライド式モデルはあります。
左から、定量器(燃料カップ)、本体、別珍袋(色は黒)です。定量器、火口とも表記が「ンキクハ」で、戦前のものであることが分かります。定量器はアルミ製。本体、フタにはハクキンのロゴはなく、フタにパテントナンバー刻印があります。火口は今と違い、スライド式です。
横から見た図です。本体、フタは一体成型ではなく、張り合わせであることが分かります。技術的に一体成型が難しかったのかもしれません。フタの側面、上底の穴は今よりだいぶ多く、大きいです。上底の穴は5つ、側面にも左右2つずつ穴があります。本体、フタともに磁石にはつきません。現行モデルと同じように真ちゅうニッケルめっき仕上げのようです。
定量器の裏にはカイロにベンジンを注ぐところの絵が刻印されています。容量を測りましたが、約25mlで、現行モデル(PEACOCK)の1日分とほとんど差異はないようです。
このスライド式モデルは、当然ながら現行機種用火口はつきません。(ちなみに、元々ついていたオリジナル火口は2本爪火口です)
ハクキンカイロに問い合わせたところ、この機種用の火口はやはり製造終了していました。が、こはる火口で代用できる。とのことなのでほんとにやってみました。
少しおおげさに写していますが、元々ついていたU火口と違い、火口側にレールがないので、きちんと装着しないと写真のようにめりこみます。
本当に点火しちゃった戦前スライド式です。こはる火口は右側に点火チェック用インジケーターがついているので、この部分の色で点火成功が分かります。
※このスライド式モデルはこはる火口が無理やり適合しますが、戦前モデルのすべてがこはる火口で対応できるとは限りません。戦前型については火口を買う前に必ずハクキンカイロに問い合わせをしてください。
※このほかにも、ハクキンカイロのサイトに出ている小判型にもスライド式モデルがありました。同じようにこはる火口が使えます。
フタの穴の量が多いので、高温多消費になる可能性があります。その場合、フタにアルミテープを貼って調節してください。
この製品についているパテントナンバーを確認したところ、発明者は創業社長の的場仁市氏でした。ただ、出願・登録が昭和13年(1938年)なので、間違いなくこれ以降に製造されたものです。ハクキンカイロに問い合わせたときは大正モデルだという回答をもらったのですが、ハクキンカイロに送った画像が悪くて誤認されたか、戦災直前モデルのため、社内に資料がなかったかどちらかだと思います。
このモデルにはほかにも謎がいくつかあります。まず、ベンジンカップがアルミニウム製です。この時代のアルミニウムは戦争のため大変に貴重品だったはずです。また、本体が真鍮製です。この合金もまた大変に貴重なものだったはずです。出願の年には金属統制が始まり、鉄くずすら闇でなければ手に入らなくなった時代にもかかわらず、航空機等に使われる特殊な金属が本体にもカップにも使われているのが謎です。なお、これの直後に作られた戦中角形(昭和15年頃製)は、カップが陶器製に、本体はステンレス製になっています。ひょっとすると軍用モデルで、ある程度は潤沢に原料がハクキンカイロ(当時の屋号は矢満登商会)に納入されたのかもしれません。(ハクキンカイロは戦時中、軍用カイロを作っていました。当時のモデルに「軍隊御用」と記されたパッケージもあります)
※この型について、当サイトではこれまで、「大正期最中型(スライド式)」と表記していましたが、大正モデルでないことが判明したのでサイト内での呼称を変更しました。